<冬季うつ病とは>
冬季うつ病は、季節とともに症状が出たり消えたりする、つまり「季節性感情障害」を伴う、うつ病。
秋の終わり、または冬のはじめに発症し、春と夏の間に消失する場合に冬季うつ病と呼ばれる。
1984年に精神科医のローゼンタールらにより「冬季うつ病」として初めて報告されている。
病気の発症時期として季節性があるのがポイントで、明らかな心理的原因となる出来事が無く、少なくとも2年間冬季に症状が出ていることが診断の条件。
冬季うつ病の主な症状には、次の様な特徴がある。
*気持ちが落ち込む。
*今まで楽しんできたことが楽しめない。
*ぐったりして疲れやすい。
*活動量が低下。
*眠気が強く睡眠時間が長くなる。
*甘いものが欲しくなる。
もしかして冬季うつ病?という場合、寝ても寝ても眠い、甘いものを欲するというのが通常のうつ病との違いだという。
あるシステムエンジニア(SE)のSさんは、2年前の11月頃から出勤しようとするとめまいがするようになり、頭痛や吐き気も感じる。
そして週末は15~16時間も眠り続けてベッドから起き上がれず、友人から誘われても出かけるのがおっくうで断ることが増え、食べても食べても満たされず、家の中に食べるものが無ければ、夜中にコンビニに駆け込むことも。
出勤できない日も多くなり、仕事で大きなストレスを感じているわけではなく、会社には行きたい。
上司のすすめで精神科を受診したところ、冬季うつ病と診断されたという。
寒さが厳しくなってくるこの時季、気分が落ち込む、疲れやすい、十分寝ているのにまだ眠い、甘いものを無性に食べたくなる、人と会うのがおっくう、といった症状に悩まされていた場合、もしかしたら「冬季うつ病」かもしれないのだ。
<通常のうつ病との違い>
専門家によれば、冬季うつ病と通常のうつ病との違いは「過眠と過食」だという。
気分の落ち込みなど、うつ病の主な症状にはほぼ違いはないが、違いが出やすいのは食事と睡眠だそうだ。通常のうつ病は、不眠や食欲の低下などが現れやすいが、冬季うつ病では逆に寝過ぎや食べ過ぎになるのが特徴的だという。
一度発症すると毎年繰り返しやすいのが特徴で、少し厄介な傾向がある。
発症率は20~40代の女性に多いという。
<主な原因>
考えられているのが、日照不足だ。
うつ症状は脳内物質の一つであるセロトニンが不足すると、出現しやすくなり、セロトニンは、日光を浴びると分泌されやすくなるので、日照時間が短い冬にうつ症状が現れやすくなる。
つまり、冬季うつは、高緯度地域すなわち北国に多いとされている。
しかし低緯度地域(南国)でも天候が不安定になりやすい場所では発症率が高くなる。
また、日本で実施された調査でも、秋田市や札幌市など日照時間が短い地域ほど、冬季うつ病になる危険性が高い人の割合が多いことが報告されている。
そして、女性は男性の4倍も冬季うつ病にかかりやすいと言われ、特に20~40代の女性に多いという報告があり、注意が必要だという。
思春期や出産前後、更年期、老年期など、女性ホルモンのバランスが崩れやすく、心が不安定になりやすいライフステージにいる人は、気をつけたほうが良いと専門医は見解している。
<コロナ禍の影響>
コロナ禍の生活習慣の影響で、冬季うつのような症状を訴える人が増え、高校生や大学生からの相談も多くなっているという。
リモートワークやオンライン授業が普及したことで室内での作業が続き、太陽に当たる機会がさらに減少していることが影響している可能性がある。
<照明を明るくするだけでも予防策に>
冬季うつの前段階または、可能性がある場合、日常生活ではどのような点に気をつければいいのか。
(1)太陽の光を浴びる
日照時間の短い時期は出来るだけ屋外に出て、日光に当たる。
それが難しい場合は、自宅や仕事場の照明を明るいものに取り換えることも予防策になる。
(2)トリプトファンを含む食材を意識する
過食は、セロトニン不足を補おうとする行為だと考えられる為、セロトニンの生成を促すトリプトファンを含む食材を意識することが重要。
トリプトファンを含む食材→肉類、魚介類(ブリ、イワシなど)、豆腐、のり、バナナ、牛乳、チーズなど。
トリプトファンの吸収を助ける食材→ビタミンB6(マグロ、ニンニク、鮭、ゴマ、抹茶など)やビタミンB12(青魚、カツオ節、イカ、レバーなど)。
うつ症状が軽快すれば過食もおさまるので、無理に抑制したり、自己嫌悪感を持ったりする必要なし。
(3)ウォーキングなどの運動をする
気分が落ち込んでいたり、イライラに悩まされていたりする時、ウォーキングなどの運動が効果的。
活発な運動によって、気持ちをコントロールする神経伝達物質の一つ「ドーパミン」が分泌される。
日光のもとで早歩きすると、さらに効果的。
(4)自分の感情を話せる人を見つけておく
一人で悩まず、気持ちを誰かに話してみることが大切、自分の気持ちを話せる相手がいなくても、誰かとおしゃべりするだけでも効果的。
(5)睡眠スケジュールを安定させる
冬季うつ病の発生には「体内時計」の乱れも深く関係していると言われており、日照時間は体内時計を調整する作用がある為、日照時間が短くなる冬は、時差ぼけのような状態に近くなる。
(1)から(4)を意識した生活を送っても、睡眠スケジュールが不規則な生活だと何もかもが乱れてしまう。
就寝時間と起床時間は決めて睡眠スケジュールを安定させたい。
そして、この様な対策をしても症状が改善しない場合や日常生活に大きな支障がある場合、治療が必要となる。
<治療>
治療は、通常のうつ病と同様に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)といった抗うつ薬が中心となる。
又、冬季うつ病患者の6~7割に効果があると言われているのが高照度光療法。
毎日特定の時間帯に数千~1万ルクスの強い人工光を1時間程度浴びる治療で、冬季の日照不足を補う。
他に、ネガティブな考えをポジティブな考えに置き換える認知行動療法も再発予防に効果があるという報告がある。
<まとめ>
冬季うつ病は、季節性とはいえ、長引くと1年の半分近くは調子が悪い状態が続き、睡眠が乱れたり、体重が増えたりするほか、仕事ではコミュニケーションが上手くいかず、生産性が落ちるなど生きづらさを感じるという。
寒くなってから気分が上がらない、寝ても寝ても眠いといった症状が2週間以上続くようであれば、精神科や心療内科への受診を検討してみるべきだ。