<見事に立ち直る>
悲願の生活保護打ち切り、心の病を克服できた居酒屋バイトのある女性の話。
その方は、柔軟なシフトが奏功し、鬱病を患いながらも安定した勤務ができるようになった。
関西在住の女性に5月、一通の書類が届く。
それは、鬱病が原因で約10年間受給していた生活保護の廃止決定通知書だった。
でもそれは、女性にとって非情な通知ではなく悲願だったという。
2年前から居酒屋でアルバイトを開始。
厳しい現実に直面し、一度は退店を決意したが、徐々に勤務時間を増やし、ようやく生活保護の受給水準を上回る収入を手にした。
現在、店に欠かせぬ存在になった。
意地でも立ち直ると固い決心をした彼女、それを何が支えたのか。
<心の異変>
心の異変を感じたのは約15年前。
プライベートでの心労に加え、職場の人間関係にも悩むようになり、心療内科を受診したそうだ。
鬱病と診断後もしばらくは仕事を続けたが、症状が悪化、精神障害者保健福祉手帳の2級→日常生活が著しい制限を受ける、と認定された。
仕事の継続を断念し、その後、生活保護の受給が始まり、そこから引きこもり生活も始まった。
病状は一向に改善せず、お前なんか死んでしまえと幻聴が脳内に響いた。
体が痙攣、何てない事でも涙が流れる。
受給者に対する冷たい視線を常に意識し、知人からは怠けていると非難される事も度々あったという。
<転機は母の死>
転機は離れて暮らす母親の死去。
亡くなる前に寝たきりの状態で施設に入ったが、当時の彼女は介護する事も出来ず、老いた母親の姿を見て将来への不安も募り、意地でも立ち直ると決心する。就労移行支援事業所での訓練をへて、令和2年4月から「てつたろう」で働き始めた。
5月下旬、40代の彼女は自治体から届いた保護廃止決定通知書を手に、今後は貯金をして生命保険にも入りたいという。
<オーナーの言葉>
何回でもチャレンジしたらいい、という言葉。
居酒屋を希望したのは、過去に飲食店での勤務経験があったかららしく、ただ、久し振りの社会復帰は一筋縄ではいかなかったそうだ。
週2回、1日4時間ほどのペースで始めるも安定して働けず、数週間休んでしまう。
同年8月には1カ月間の勤務日数が2日にまで減り、もう辞めますと、ついに上司に伝える。
それでもオーナーは、一回失敗したらダメではなく、何回でもチャレンジしたらいい、彼女を引き留めた。
そしてしばらくの間、精神的な負担が小さい調理場中心の短時間勤務に切り替え、心身の状況を踏まえながら、少しずつ勤務時間を増やしていく。
すると柔軟なシフトが奏功し、月日を重ねるごとに休みも減り、昨秋からは週5日勤務が安定するようになり、仕事量に反比例して生活保護の受給額も減り、正式に廃止が決まったという。
<心の病>
心の病はまだ完治していない。
それでも客との何げない会話が楽しいらしく、店にとってなくてはならない存在にまで成長したのだそうだ。
彼女は、過去の生活を振り返り、働き始める前は今の姿を想像もできなかった、周りの理解があったからこそ、ここまでこれたと頰を緩めた。
<まとめ>
精神障害者の求職は大幅増しの様だ。
鬱病など精神障害がある人たちの働く場所の確保は、社会の課題となっているという。
厚生労働省によると、令和3年度にハローワークで精神障害者が新たに求職の申し込みをしたのは約10万8千件、これは、身体障害(約5万8千件)や知的障害(約3万5千件)よりも多く、10年前の倍以上となっているそうだ。
法律で従業員数に応じて障害者の雇用が義務付けられている為、就職件数は増加傾向にある。
ただ、身体障害者の平均勤続年数が10年2カ月に対し、精神障害者は3年2カ月、定着しやすい職場環境づくりが求められている。